第17章 父の日
「___でね。その時船長さんが…」
「……なァ水琴」
穏やかな航海日和。
いつものように甲板でおしゃべりに興じていた水琴とエースだったが、ふとエースが水琴の言葉を遮った。
「なんで親父のこと“船長さん”って呼ぶんだ?」
「え?」
「もう家族になったんだろ。そんなよそよそしい呼び方じゃ親父も寂しがるぜ」
親父って呼べよ、とエースは口を尖らせる。
「や、だってなんか気恥ずかしくて…」
「家族なんだから恥ずかしいもないだろ」
「そうだけど、呼び方変えるのって結構タイミングを計るのが難しいというか…」
本来なら助けてもらったあの時が一番絶好のタイミングだったのだが。
仮にも女が“親父”と呼ぶのはどうなんだろうとふと考えてしまい、結局呼び方を変えるタイミングを逃してしまったのだった。
「ど、どうしよう…」
「普通に呼べばいいだろ」
「でも、うぅ……」
「そんな水琴ちゃんに朗報!」
突然背後からにょきっと現れたサッチに思わず水琴はきゃああ!!と叫ぶ。
「び、びっくりした…!」
「次に立ち寄る島には“父の日”ってのがあるらしい」
「…父の日?」
日本では馴染みのある単語だが、この世界で聞いたのは初めてだ。
まさか存在するとは思わなかった水琴はサッチの言葉を繰り返す。
「なんでも普段表せない父親への感謝を伝える日なんだってさ。
ちょうどモビーが上陸する頃その記念祭がやってるって話だ」
「そうなんだ!」
「ちょうどいいじゃねェか。せっかくだから親父も祝おうぜ!」
「それでだ。ちょっと耳貸せお前ら…」
何かを企んでいる顔でサッチが二人へ耳打ちする。
それにふんふんと相槌をうつ二人。
「__ってわけだ」
「なるほど」
「そりゃいいな」
サッチの作戦を聞き二人は顔を輝かせる。
「いいか。絶対にばれないようにしろよ」
「分かってる!」
「島に着くのが楽しみだね!」
こうして父の日作戦はひっそりと進められることとなった。