第104章 サバイバルマッチ
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観客達の興奮冷めやらぬ中央広場。
その鳥籠の中で少女、リリィはじっと蹲り目を閉じていた。
「ダグ……」
海賊たちに襲われ、傷だらけになりながらもこちらへ手を伸ばしていた姿を脳裏に思い浮かべる。
彼はどうなっただろうか。
安否を知りたいが、その後すぐこの島へ連れてこられたリリィはその手段を持たない。
__もう、会えないのだろうか。
気を緩めれば浮かんでくる嫌な想像はリリィの心を恐怖で塗りつぶそうとする。
泣き出してしまいたくなるような衝動に耐え、リリィはぐっと唇を噛んだ。
今感情のままに泣き叫んでしまえば、この島を嵐が襲うだろう。
もしかしたらこの鳥籠から出られるかもしれないが、外には歌詠みを狙う数多の海賊たちがいる。
海にたどり着く前にまたすぐ捕らえられてしまうだろうことはリリィにはよく分かっていた。
それに、歌詠みの力をそんな風に暴走させたくはない。
優しかった両親を思い出す。自分と同じ歌詠みの力を引く母親の歌はもっと素敵で優しい力を秘めていた。
歌詠みであることが誇らしかった。
けれど、今はこの力がとても怖い。
ダグとの旅の途中、何度も恐怖に負け泣くリリィに海は応え荒れた。
そのたびに大丈夫だと抱きしめ、頭を撫でてくれた武骨な腕を思い出す。
__必ず君を故郷へ送り届ける。海賊からも、君の力からも、わたしが守ろう。
温かい腕に、真実を語るその声に。リリィは何度も励まされた。
もう二度とあの手を握ることは出来ないのだろうかと思うと、リリィの目に涙が浮かぶ。
『おぉっと、サバイバルマッチも終盤!ここにきてかなり大きな動きが出たようだ!!』
司会者の叫ぶ声がリリィの耳にも届く。
のろのろとリリィは顔を上げゲームの様子を映すモニターを見た。
『次々と離脱チームが増えていく!ここにきて潜伏していたチームが動きだした様子!』
次々と海賊旗が灰色になっていく。
その中で未だ光を放つ“No DATA”のマーク。