第104章 サバイバルマッチ
***
男の名はダグといった。
ある島で防衛隊長をしていた彼は、数か月前初めて歌詠みと出会った。
「あの子は両親と共に我が島を訪れていた。故郷へ帰る途中なのだと。……何もなければ、そのまま無事に島を出ることができたはずだったのだ」
歌詠みの力は生まれた時から発現するものではないらしい。
ある程度自身の感情をコントロールできるようになり、初めて自然を操る力を扱えるようになるのだという。
普通は十二を超えた頃がそれにあたるのだが、彼女は違った。
「あの子はまだ十であるにもかかわらず、その力を発現させてしまった」
恐らく両親も、本人すら意図したものではなかったのだろう。
彼女が歌詠みだという事実はあっという間に広まってしまった。
「我が島は貧しい島だ。少ない資源を、島を二分する二つの国が奪い合い発展してきた。どちらの王もいつだって他国を出し抜く方法を考えているような、そんな島だ」
そこに強力な兵器となるだろう存在が突如湧いて出たらどうなるか。
王は、と苦しそうにダグは拳を握りしめた。
「彼女ら親子を捕らえ、自国の発展のために利用しようとした。__わたしはそれが許せなかった」
国の事情に関係ない彼女たちを巻き込んでいいはずがない。
ましてや、あんな年端もいかない少女に人を傷つけるようなことをさせていいはずもない。
何度も進言し、しかし変わらない現実にダグはとうとう国を出る決断をした。
「牢を破り、親子を連れ出し海へ出ようとした。しかし、それを王は見抜いていた。
……なんとか彼女たちだけでもと思い奮戦したのだが、力及ばず……」
その過程で彼女の両親は命を落とし、ダグもまた重傷を負った。