第104章 サバイバルマッチ
「え?エース、ちょっとま__」
「そりゃすげェ、優勝したら二百倍だ!死なねェように頑張るこったな」
止めようとした水琴の声は胴元にかき消され、エントリー完了の判が押される。こうなればもう訂正は出来ない。
開会は明朝だ、と告げられエースたちはその場を離れた。
「二百倍ってことは、合わせて一億四千万ベリーか」
「そんだけありゃあこの先楽になるんだけどな」
「優勝狙ってくに決まってんだろ!全財産賭けちまったし」
「いやはや、戸惑いなく全財産注ぎこむとは、エースも粋だねェ!」
トウドウががっはっは!と大声で笑うのに、水琴はがっくりと項垂れた。
「出来れば少しくらい残してほしかった……」
「何言ってんだ水琴!そんな弱気でどうすんだよ」
「だって、周り見てよ」
あちこちに翻る海賊旗を見つめる。その下に集うのは屈強な海賊たちで、数も装備も明らかに彼らの方が上だった。
「一体どんな海賊がエントリーしてるか分からないのに、たった五人で優勝できるかどうか」
「何とかなんだろ」
「まーまずは宿取って飯食おうぜ。さすがに疲れたわ」
キールの提案に一も二もなく飛びつき、早速宿をとり併設された食堂で腹を満たす。
どうやら参加者は無料のようで、遠慮なくエースたちは料理を注文していった。
「……よく食べること」
「お嬢もしっかり食っとけよ!明日はどうなるか分からねェからな」
トウドウに言われ水琴も料理に手を伸ばす。
その傍を黒い影が通った。
「……ん」
気配に顔を上げればローブを被ったその人物は食堂の隅に移動しその手の獲物を壁に立てかける。
巨大な斧を背後に顔を晒さずただ一人で静かに杯を傾ける様子は少し周りから浮いていた。
「どうした?」
「………ううん、別に」
デュースの問いに曖昧に首を振り返す。
仲間たちと騒ぐ海賊たちが多い中一人なんて珍しいな、と思っただけだ。
すぐに水琴は目を逸らし、食事に顔を突っ込んで眠りこけているエースをばしんと叩いた。