第103章 グランドラインへ
「いりません」
気付けば水琴は口を開いていた。
強く響いた言葉に三人の視線が水琴へと集まる。
「この船の船長はエースです。ロジャーでも、彼の息子でもありません。……ただの、エースです」
エースの心の内を、水琴は知らない。
だからこれは、私のエゴだ。
「この船の針路はエースが決めます。だから、それはいりません」
まっすぐにクロッカスを見つめる。
この選択が本当にエースにとって正しいのか、水琴には分からない。
でも、今のエースにロジャーの影をこれ以上背負わせたくはなかった。
この偉大な海を、ただ一人の海賊として。
ただのエースとして、生きてほしかった。
ただ、己のあるがままに。
「………そうか」
黙って水琴を見つめていたクロッカスはエターナルポースを持ったまま手を下ろす。
不意にエースは踵を返し、家を飛び出していった。
「あ、ちょっとエース!」
「水琴」
余計なことを言ってしまっただろうかと慌てて席を立った水琴をデュースが押し留める。
「エースは俺が追う」
「でも……」
「俺も、まだあいつに伝えないといけないことがあるからな」
それが先程のエースの問いへの答えだということに気付いた水琴は黙って身を引く。
家を出て行こうとしたデュースは扉の前でぴたりと立ち止まった。
「__俺は、お前の言ったことは間違っていないと思う」
「デュース……」
「俺も他でもない、“ただのエース”に救われた口なんでな」
それだけ言ってデュースは家を出て行った。二人が去った扉を見つめながら水琴はクロッカスの名を呼ぶ。
「彼の想いを無駄にしてしまって、すみません。
__でも私、ロジャーさんよりエースの方が大事なんです」
「いいさ。彼は良い仲間を持った」