第103章 グランドラインへ
「ゴール……?」
「違ェ!!」
戸惑い呟くデュースの言葉を遮るようエースは怒鳴り否定する。
そしてその名を口にしたクロッカスを力の限り睨んだ。
「おれの名はポートガス・D・エースだ。……二度とその名を呼ぶな」
「ポートガス。そうか、ルージュの……」
「……お袋を知ってんのか」
「もちろん。私は、ロジャーの船で船医をしていた。身重の彼女を診ていたのも私だ」
「……!!」
語られる事実にエースは目を見開く。水琴もまた内心驚いていた。
ロジャーの船で船医をしていたことは知識として知っていたが、まさかルージュの主治医でもあったなんて。
ロジャーとルージュの出会いは知らないが、クロッカスが彼女のことを知っているということは二人は航海中に出会ったのだろうか。
「お前がエースなら、託したいものがある」
少し待っていろ、とクロッカスは奥の部屋へと消える。
残された三人は気まずい沈黙に晒された。
「エース、その……」
「__嫌になったかよ」
デュースに被せるようにエースは自嘲気味に呟く。
「何を……?」
「鬼の子の船に乗るのが、嫌になったか?」
エースの問いにデュースは息を呑む。何か応えるより先にクロッカスが戻ってきた。
「これだ」
「これ、エターナルポース……」
きらりと光を反射する砂時計の形をしたそれは、まっすぐに遠い海を指している。
台座の金属板には“エターニア”と記されていた。
「ロジャーが、もしも子どもがここへ来たら渡してくれと置いていった物だ」
「………」
「複雑だろう。だが、頼む。受け取ってくれないか」
クロッカスの言葉にエースは動かない。
その硬い表情が、幼少期のエースと重なった。
出逢ったばかりの頃。世界に牙を剥きながら、たった独りでもがき苦しんでいた頃のエースと。