第16章 家族
焦る水琴の心境をよそに、白ひげは静かに部下の一人へ声を掛けた。
「ナミュール」
「おう」
ざぶんと海へ飛び込む。
ものすごい速さで壁まで泳いだナミュールはちょうどモビーディック号の進路を阻む壁の前でゆっくりと構えた。
「……セィッ!!」
気合の一発とともに鉄の壁が根元から真っ二つに折れる。
目の前でひしゃげ海へ沈んだ鉄の壁に目を丸くする水琴。
その上を悠々と通りモビーは海へ出る。
これで本当に終わった、と思った水琴の目の前に一隻の軍艦が現れた。
揺らめく旗は海軍のもの。
「……あ、」
甲板に見知った姿を見つけ、蒼褪める。
「なんだ、もう一隻いたのか?」
「あれくらいならおれが…」
「ダメ!!!」
腕まくりをし突っ込もうとするエースを引きとめる。
「駄目、エース!」
「なんでだよ。別にあれくらいならおれだけで…」
「ダメったらダメ!!」
ただ駄目だと繰り返す水琴に首を傾げる。
「…心配すんな、水琴」
「船長さん……」
エースへ縋る水琴の頭を撫で、白ひげが甲板の先頭に立つ。
「……バスターコールがあったから何かと思えば。お前か白ひげ」
「は、海軍大将まで出てくるとは海軍は暇らしいな」
「ぬかしちょる。このまま逃げ切れると思うな」
「悪ィがてめえを相手にするより大事な用がある。ここは通らせてもらおうか」
ぐぐ、と白ひげが大気を掴む。
「ぬんっ!!」
巨大な波が軍艦を襲った。
穏やかだった海が突如荒れ始める。
「た、大将!船が!!」
「コントロールが利きません!」
「ちっ……」
舌打ちし、荒れ狂う波間に離れていくモビーディック号を見つめる。
「次会った時は容赦せん……」
***
「ご迷惑をお掛けしました」
赤犬の軍艦から逃れ。
落ち着きを取り戻した甲板で、私は今までのことを全て話し頭を下げた。
言う必要はないとエースは言ったけど、私なりのけじめをつけたかった。