第103章 グランドラインへ
水琴たちが新たに手に入れた船、ピースオブスパディル号での航海は順風満帆だった。
先日までの波乱な日々が嘘のように穏やかな時間が過ぎる。ローグタウンが近いせいだろうとデュースが話すのに頭を捻り、水琴は問い返した。
「近いなら逆に海賊って増えるんじゃないの?グランドラインの玄関口なんだし」
「そう、ローグタウンには海賊が集まる。つまりそいつらをきっちり取り締まれる実力の高い奴らがこの辺りの海域を担当してるってことだ。だから逆に下手な騒ぎはそうそう起きやしねェのさ」
「あーなるほど」
スモーカー大佐のような、ということか。
記憶の端に追いやっていたが、そういえばローグタウンは彼が担当する町だ。
果たして無事にグランドラインへ向かうことができるのだろうか。なんとも不安が込み上げてくる。
「海賊ってばれなきゃ大丈夫、だよね……?」
「そうだな。ばれなきゃ……」
二人揃ってそう言い、肩を落とす。
幸いまだ海賊旗は掲げていない。
大人しくしていれば滞在中は気付かれないはずだ。
きっと大丈夫、うん。と己に言い聞かせながら水琴はデュースと共に甲板へ出る。
「ねぇキール君」
甲板を見渡せば目当ての人物を見つけることができた。刀の手入れをしていたキールへ近づきながら声を掛けると、キールは微妙な表情で振り返る。
「……あのさぁ。その“君”っての止めねぇ?」
「え、嫌?」
「嫌っていうか、むず痒いっつーか。エースは呼び捨てでなんで俺だけ君付けなんだよ。俺とエース同い年だぞ」
「あ、そうなんだ」
「お嬢!俺もさん付けなんてくすぐったくて敵わねェ。いっちょ呼び捨てにしてくれや」
「えー。でもトウドウさんは年上だし」
突然の呼び名変更の訴えに戸惑う。
元々敬称や敬語がデフォルトで育った水琴には、出会って間もない二人を呼び捨てることに若干の抵抗があった。
特に年上であるトウドウを呼び捨てるのはだいぶ気力がいる。白ひげのみんなはもう家族なので例外だが、それでも完全に敬語が抜けるのはずいぶん時間がかかった。