第102章 船医
「__船医を募集してる船ってのはここか?」
肩を落としているデュースを労わっていれば甲板に長い影が差す。顔を上げればグレーの瞳と目が合った。
「キール君……」
「突拍子もない夢を掲げた男が船長だって聞いて来たんだけどよ」
「夢?」
何のことだ、と首を傾げていればエースがキールに気付き目を向ける。
「だったらどうなんだよ」
「奇遇にも、俺もこれから不可能を可能にしようと思ってるところでよ。……そんな男の船に乗るのも悪かねぇなと思ってさ」
「気付くのがおせェんだよ」
置いてくとこだ、とエースが口角を釣り上げ片手を上げる。
それにキールが手を挙げ応えた。乾いた音が甲板に響く。それは新たな仲間の参入を意味していた。
「俺が船医となるからには半端な怪我でくたばるなんざ許さねぇからな。首が千切れねぇ限り延命してやるから覚悟しろよ」
「言葉尻が優しいのか怖いのか分からないって凄い」
随分と頼もしい船医を仲間にしたらしい。
「準備完了だ大将、いつでも出せるぜ!」
ちょうど見計らったようにトウドウの出港準備完了の声が響く。
それを聞きエースがよし!と船首側へ立った。
「出航だ野郎ども!!」
大きく帆を膨らませ、ピースオブスパディル号はゆっくりと港を離れる。
船は追い風を受け次第に速度を増し、広い海へと飛び出していった。
「__グランドラインには、きっと俺も知らないような医術がたくさんある。俺は絶対、あの人の目を治すんだ」
どこまでも広がる水平線を眺めながら、キールが力強く自身の決意を言葉にする。
その目には初めて会った時のような切羽詰まった光はなく、ただ希望と夢だけが広がっていた。
「これからよろしく頼むぜ!」
「「「 おぉ!! 」」」
新たな船と仲間を得て、エースの旅は順調にグランドラインへ近づいていく。