第102章 船医
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あの騒動から二日後。
水琴たちは未だウィッチタウンに滞在していた。
いや、滞在せざるを得なかったと言うべきか。
あれだけの騒動があった中港を出て行けば海軍の良い的だ。ほとぼりが冷めるまで潜伏しようというデュースの案で、水琴たちはチズルのドッグに匿ってもらっていた。
再三の待てにエースは大層ご立腹だ。しかしこればかりは仕方ない。水琴としては落ち着いて出航の準備が出来たので結果的には良かった。
そして海軍の聴取も終わり、ようやく落ち着きを取り戻し始めた港に新たな船、ピースオブスパディル号が浮かべられた。
「相変わらず旗は黒旗のままなんだね」
「うっせー」
ぶすりと膨れるエースを余所にトウドウがてきぱきと指示を出し着々と出航の準備は整えられていく。
「……来るかな」
ぽつりと零された水琴の呟きに荷物の点検をしていたデュースがどうだろうな、と返す。
「あれから二日だ。これで来なけりゃもう無理だろうな」
なによりうちの船長がもう待てそうにない、と示す先ではエースが走り出しそうな勢いで出航を今か今かと待っている。
その様子はまるで新しいおもちゃを早く試したくてしょうがない子どものようだ。
確かにあの様子ではこれ以上の待てはもう無理だろう。となると船医はどうなるのか、とデュースを見上げる。
「ローグタウンに期待したい、と言いたいところだが……グランドライン手前であいつが止まるはずもないな」
水琴の視線を的確に拾い上げ、デュースはげんなりと呟く。
エースの方を見る。無理だろうな、と水琴も同意しデュースに同情した。
ここでダメならしばらく船医はお預けになるだろう。彼の胃に穴が開かなければいいが。