第102章 船医
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「__キール」
「……師匠」
弱々しい弟子の声が小さく響く。悪いことをしたと、心底後悔している時の声音は幼い頃から変わらないなと思いながらセトはしゃがみ込みキールと目線を合わせた。
もうほとんど見えない目でキールを黙って見つめる。
「師匠、ごめん……っ、俺……!」
「家のことは知っています。貴方に大事がなくてよかった」
まぁ、だいぶ無茶はしたようですがと付け加えればどうして!とキールは声を荒げた。
「なんでそんな簡単に許すんだよ!あれは、あの写真は……師匠の大切な__」
「形あるものはいつか壊れる。それは自然なことです。でもね、決して失われないものもあるんです」
ここに、と自身の胸に手を当てる。ここにも、と次にキールの胸を指さした。
「彼女が私に与えてくれたものは、すべてここに残っています。そして、私を通じて貴方の中にも」
彼女に会って、私は変わった。
強さには種類があることを知った。
強者と戦う高揚感とは異なる、癒し、育む喜びを知った。
そうして変わった私だから。キール、貴方に出会えた。
「昔の私だったら、路地に転がる子どもに施しはしても拾い育てようとは思わなかったでしょう。
彼女がいて、今の私がいる。今の私がいるから、今の貴方がいる。
__そうして、人は繋がり残していくものなのです」
覚えていますかキール、と傍らに並び腰を下ろす。
「昔、まだ医学と剣術を学び始めたばかりの頃。貴方はいつかこの力で私の役に立ちたいと、そう言いましたね。
それに私はこう返しました」
「……“私のためにではなく、他の者のために使いなさい”」
「おや、覚えていたんですね」
あまり聞く耳を持っていない様子だったのに、と揶揄えばプイと横を向いてしまう。
それにくすりと笑いながら、セトは続けた。