第102章 船医
「大丈夫だった?凄い音したけど__って、何その怪我!」
「よォ。怪我ねェか?」
「私よりエースの方が満身創痍なんだけど!」
「また派手に暴れたな……」
「壊したのはおれじゃねェぞ」
「__やるかやらないか、か」
合流した水琴とデュースに向かい合っていたエースはキールの声に視線を移す。
エースの視線に気づいたキールは少し俯きながら口を開いた。
「お前の言葉を聞いて、昔を思い出した。……師匠から受け継いだ医学で、絶対に師匠の目を治してやるんだって。確かに、最初はそう思っていたのに。
__いったいいつから、出来ないことに脅えてやることを放棄するようになってたんだろうな……」
「__お前はさ、この町でやれることはもうみんなやり切っちまったんだろ?」
医学なんてさっぱりのエースだが、どれだけの苦労と努力を重ねて来たか今までのキールの言動から想像がつく。
途方もない数の文献を読み、あらゆる仮説を立て、検証し、そして自分の無力を嘆いてきたのだろう。
「なら、行こうぜ。その一歩先に。おれ達と」
「………」
沈黙を守り俯くキールにこれ以上かける言葉はない。
言いたいことは全て言った。あとはキール次第だ。
「行くぞ」
「え?エース、でも」
キールを残しエースは立ち上がりドッグの方へ足を向ける。
戸惑いながらエースとキールの両者を見る水琴の肩をデュースが叩き通りの方を示す。
駆けてくる影に水琴もまた気付き、黙ってエースの後を追った。
言いたいことは言った。やりたいこともやった。
あとはキールと、セト次第だ。
背後で向き合う師弟を置いて、三人はその場を立ち去った。