第102章 船医
「そう数が撃てないのが難点だが……切り札にはもってこいだ」
「ちっ……!」
再びエースは地を蹴りヴァレリーへ迫る。しかしダメージを受けた身体では先程までのような立ち回りは難しく、ヴァレリーの繰り出す槍を次々受けてしまった。
脇腹にもろに入り横へ吹き飛び先程ヴァレリーが崩した建物へ突っ込む。瓦礫が更に崩れ、エースの視界を塞いだ。
「潰れちまったか?」
「……そう簡単に、死ぬかよ」
遠ざかりそうになる意識をなんとか繋ぎとめ瓦礫の合間から立ち上がる。
「__なんだ、しぶとい野郎だな」
「おれはこれからグランドラインへ入って最強まで上り詰めるんだ。__まだ始まってもいないのに、終わってたまるか……!」
「最強だ……?なんだ、ワンピースでも探して海賊王でもなるつもりか」
「生憎とそりゃ弟の夢だ。兄貴が横取りして良いもんじゃねェ」
ふとエースの瞳が和らぐ。一瞬だけ浮かんだ兄の表情はすぐさま消え、エースは再び強い意志を込めヴァレリーを見返した。
「弟が海賊王なら。おれはその上だ。海賊王なんて目じゃねェ。
__おれは、海賊王を超える」
自分が悪魔の子、鬼の子とののしられる羽目になった諸悪の根源。
憎むべき親が海賊王であるにもかかわらず、エースが海賊として海へ出たのはそれが理由だった。
いつまでも親の影に縛られるのではなく、自分の力でそれを乗り越える。
そうすれば、ロジャーの鎖から自分を解放できる気がした。
海賊王を超え、最強となって初めて。エースはエースとして生きていける気がしたのだ。