第102章 船医
そのことに焦りを覚えたりはせず、エースは冷静に戦況を見る。そして一気に距離を詰めるべく駆けだした。
押されていたはずのキールが刀を返し槍を弾く。突きの勢いを利用された槍はそのまま作業小屋の壁へ深々と突き刺さった。
動きの止まった背中へ拳を振りかぶる。致命の一撃となるだろう拳を前に、振り向いたヴァレリーはエースの拳を受けようともせずにやりと笑った。
「っ!!」
同時に肩に強い衝撃が走る。
まるで鉄球が思い切りぶつかったような衝撃に、エースは後方へ大きく吹き飛んだ。
受け身を取る余裕もなく地面を転がる。なんとか顔を上げると、壁に突き刺さった槍の柄が大きく開き奇妙な形へと変形していた。
「っんな__!」
突然の事態にキールも一瞬動きを止める。その隙を狙い、ヴァレリーは槍を引き抜き無遠慮に振るった。力任せに繰り出された横殴りの攻撃は咄嗟に刀で受け止めたものの、キールもまた同様の衝撃を腹に受け吹き飛んだ。
「まさかこれを使うことになるとは、やるじゃねェか」
倒れ伏す二人に対し余裕の笑みを浮かべるヴァレリーは自身の獲物を見せつけるように振るう。
その形は普通の槍そのもので、特におかしなところは見当たらなかった。
「コイツは特注品でな。手元のスイッチで槍先、柄先どちらからでも超圧縮された空気を放つことができる。出力最大にすりゃ船に風穴開けて沈めることもできる。
__こんな風に」
槍の先が二股に別れ怪しい光が漏れる。その状態でヴァレリーは大きく槍を引くと突きを繰り出した。
その先端から見えない砲弾がエースを襲う。ギリギリで避けたエースの背後で直撃を受けた建物が音を立てて崩れた。