第102章 船医
全体の把握を終え水琴は風を生み目の前の敵にぶつける。人の心配をしている場合ではない。連戦のため疲労が溜まっている自覚はある。油断すれば一撃貰ってしまうだろう。
それはデュースも同じだった。いや、物理攻撃が効く分デュースの方が深刻だ。なるべくデュースから離れぬよう距離を保ちながら水琴は敵を沈めていく。
「うらァ!!」
しかし彼も元医学生だというのに結構場慣れしている気がするのは気のせいだろうか。
本人は頭脳労働担当だと言っているが、十分戦うお医者さんでやっていけると思う。
この船戦闘力高いなぁと考えていればまたもや数人が襲い掛かってくる。
それを迎え撃とうと手を構えると突如髪を引っ張られた。
「いっつ……!!」
堪らず顔をしかめる。のけぞった喉をかき切ろうと鈍い光が輝いた。
風になり逃れる前にデュースの拳が海賊を捉えた。殴られた海賊が隣の味方を巻き込み倒れる。
それを確認すると未だ髪を握る背後の海賊に振り向きながら風をぶつけた。悲鳴を上げ離すと同時に痛みが引く。
「大丈夫か」
「大丈夫。ありがとう」
「しかしキリないなこりゃあ」
合流したトウドウも敵の執拗さに溜息を吐く。
これで二回目だが、どうやら彼らのしつこさは筋金入りらしい。
こんな戦意を与えられるほどまでにあのヴァレリーという頭は部下には慕われているのか、はたまた恐れられているのか。
「これは頭を落とさないと終わらねぇかもな」
デュースがエースたちの方を見る。そちらではまだ戦いが繰り広げられていた。
「エース、キール君……」
二人だってまだ頑張っている。
弱音など吐いていられない、と水琴は気合を入れ直す。
そして再び風を生み、前方の敵を薙ぎ払った。