第102章 船医
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離れたところで大きな音が聞こえ、思わず水琴はそちらへ視線を向けた。
廃材が崩れた音らしい。砂煙でよく見えないが、どうやら向こうでも始まったようだ。
「デュース、チズルさん達と合流しよう。風で道を開けるから__」
最後まで言い切る前に目の前の海賊たちが吹っ飛ぶ。敵を蹴散らし現れた姿に水琴はぱっと表情を輝かせた。
「トウドウさん!」
「ようお嬢。騒がしくて気になって出てきちまったよ。あちらさんが例の海賊ってとこかい?」
「そうなの。チズルさんの船を狙ってるみたいで」
「そりゃあ粋じゃねェな。で、エースはどこにいんだい」
「あっちだ」
デュースが指さす先ではエースがキールと共にヴァレリーに向かっているところだった。
トウドウがキールを見て顎をさする。
「横のは誰だ?」
「船医候補だ。まだな」
「なるほど。どうやら問題はまだまだ山積みってこったなァ」
呑気に話す二人の背後に海賊が躍り出る。がら空きの背中にカトラスを突き立てようとしたその時、トウドウの銛が唸り襲い掛かろうとしていた海賊たちを吹っ飛ばした。
その勢いにたじろく海賊たちに向けトウドウは再度銛を構える。
「ずっと整備ばっかで肩が凝ってたところだ。ちょいと運動に付き合ってくれや海賊さんよ」
「い、いけェ!!」
ヴァレリーに勝るとも劣らぬ巨体に海賊たちはしり込みしていたようだったが、彼らからすれば一船大工に手玉に取られることはプライドが許さなかったのか、一斉に切りかかる。
しかしトウドウもさすが、漁師団団長は伊達じゃない。
戦っているところを初めて見たが、これほど強いとは思っていなかった。
少し余裕ができチズルの方へも視線を向ける。彼女の率いる船大工たちもまた荒事に慣れた者たちのようで、華麗な連携で的確に海賊たちを倒していた。