第102章 船医
「何が……っ」
「俺が俺がって躍起になって、大事なもん見えなくなってんじゃねェの」
「何知った風な口利いて__っ」
「知ってるさ。だってさっきお前が言ったんだろ」
セトの恩に報いたいって。
エースの突きつけた言葉が心に突き刺さる。
そうだ。師匠の恩に報いたい。
そのためにここまで突っ走ってきたんだ。
「セトの恩に報いる手段は、本当にこれしかねェのかよ」
「………」
「そう思い込んでるだけじゃねェの」
反射的に反論しようと口を開き、しかし言葉は続かなかった。
代わりに脳裏ではいつかの師匠の言葉が響く。
__キール、貴方の気持ちは嬉しいですよ。
__でも私はね__
低い視線。見上げた先の優しい眼差し。
今の今まで忘れていた。
いや、聞かなかったことにしていた、師匠の__
眼前で廃材を払いのけ、ヴァレリーがゆっくりと身を起こす。
「__驚いたな。まさか槍ごと吹っ飛ばされるとは思わなかった」
「自慢の槍だったか?そりゃ悪かったな」
「いや、面白いと思っていたところだ。気にするな」
再び槍を構えるヴァレリーに対しエースが腰を落とし構える。
その横に並び、キールもまた刀を構えた。
「……共闘は嫌なんじゃなかったのかよ」
「悪い。__少し、頭が冷えた」
「そうかよ。んじゃあ、仕切り直しだ」
並び立つエースとキールにヴァレリーは余裕の表情を崩さない。
「一人が二人になったところで何が変わるってんだ」
「あァ変わらねェな。お前が負ける未来は」
「……どこまでも口の減らねェヤツだ」
「生憎と嘘は言えねェんだ、よっ!!」
大きく一歩踏み出しエースが先制を仕掛ける。
それに続くため、キールもまた駆け出した。