第102章 船医
「一人じゃねェさ」
聞き慣れない、しかし先程まで耳にしていた声を聞きキールは我が耳を疑った。
その直後に海賊たちの後方で風が唸りを上げ吹き荒れる。その勢いはまるで竜巻のようで、周囲にいた海賊は悲鳴を上げ吹き飛んだ。
開けた空間に三人の影が立つ。
「チズルさん。目的の海賊はこいつらで間違いねェんだよな」
「あぁ、そうだよ。ヴァレリー海賊団。海軍の見えないところでしかデカい顔が出来ない、せこい奴らさ」
「よし。おいそこのデカ槍。どこの誰だか知らねェが、おれの船の為にぶっ倒されろ」
「相変わらずめちゃくちゃな言い分だな」
「これじゃどっちが悪役だか」
デュースと水琴が背後で溜息を吐くのを見て我に返る。
「ちょっと待て!何勝手に割り込んでんだ。こいつは俺が倒すんだよ」
「知らねェよ。早い者勝ちだろ」
「……おいおい、現れて早々仲間割れか?」
言葉と共に丸太のような槍が迫る。槍先を横に受け流し、キールはチズル達に被害が及ばないよう距離を取った。
その後を追うようにヴァレリーが槍を返し下から抉るように柄先でキールの腹を狙う。衝撃を受け流そうと構えた先で黒い靴が柄を蹴り飛ばし弾くのが見えた。
軌道が逸れ勢いの弱まったそれをエースが掴み、回転を掛けヴァレリーごと振り回し投げ飛ばす。槍の重さも相まって、ヴァレリーは大きな衝撃音を立て廃材置き場へと突っ込みその山を崩した。
両手を払いながら乱入者__エースは目を合わせにやりと笑う。
「仲間外れは寂しいだろ、仲良くやろうぜ」
「っ手を出すなよ、これは俺の問題で__」
「おれの問題でもある。理由は違ェが目的は一緒だ。なら共闘が手っ取り早いだろ」
「それじゃあけじめにならねぇんだよ!俺のせいで取り返しのつかないことになったんだ。俺がどうにかしないと__」
「……お前さあ」
やっぱバカだろ、とエースは呆れたように呟いた。