第102章 船医
ドッグのある港が近づくにつれ騒ぎが大きくなる。
前方を見据える視線の先ではガタイの良い船大工たちを引き連れたチズルが頭であろう海賊と正面切って向き合っていた。
「ばあさんよォ、これが最後の通告だ。オレたちに新しい船を寄越しな」
「誰がばあさんだ。それにあんたの依頼は船の修理だったろう。そっちはどうするんだい」
「ちんたら修理を待つ時間はもうねェんだ。聞きゃあ良い船があるらしいじゃねェか。交換といこうじゃねェか」
「……船をただの道具としてしか見ないあんたらに渡す船は無いよ。それに、あの船はもう予約済みだ」
「そうかい。交渉は決裂ってわけだな」
海賊が背負っていた巨大な槍を引き抜く。チズルに向かいその槍を振りかぶったのを認め、キールは刀に手を添え効き足に力を込めた。
二人の間に入り槍を受け止める。その衝撃の重さに思わず顔をしかめた。
「……誰かと思えば医者の小僧じゃねェか。その様子じゃオレたちのプレゼントは気に入ってくれたみてェだな」
「っやっぱりお前らがやったのか……!」
「そう怖い顔をすんなよ。お前が悪いんだろう?オレたちはただ、海賊に楯突いたらどうなるか優しく教えてやっただけだ」
見下してくる視線に何も言えない。
この海賊の言う通りだった。
結果を焦るあまり、後先考えず突っかかっていた自分の愚かな行動が今回の騒動を招いたことは自明の理だった。
「そうさ、悪いのは俺だ。……だから、俺が落とし前付けなきゃなんねぇんだよ……っ」
取り返しのつかないことをした。
だから、せめてこの騒動は自分で決着をつけたい。
そう、命に代えても。
「立派な心掛けだな。だが、この人数相手にすんのは少々無茶が過ぎるんじゃねェか?」
「無茶だってやってやるさ。そうするしかねぇんだ」
「キール、お前何馬鹿な事を__」
「チズルさんは下がっててくれ。こいつは俺が仕留める」
「デカい口叩くじゃねェか。たった一人で何ができるってんだ」