第102章 船医
「言っただろ、舐められっぱなしじゃいられねェってよ」
「……だから、どういう意味__」
「てめェの師匠は、セトって町医者らしいな」
キールが目を見開くと同時、後方で爆発音が響く。
振り向けば黒煙と炎がスラムを囲む壁の向こうで上がるのが見えた。
……あの方向は。
「師匠……?!」
「ざまあねェなァ!今頃家は黒焦げだ」
「なんてことを……っ」
「__っ」
耳障りな笑い声を上げる海賊は無視しキールは刀を収め路地の向こうへ駆けていく。
「おれたちも行くぞ」
「エース……!」
「こいつら、目当ての海賊かもしれねェからな」
確かにこれだけの騒ぎを起こしているにもかかわらず他に顔を出す海賊がいないところを見ると、根城にしているという例の海賊である確率が高いだろう。
だがそんなことよりも、まずはセトの安否を知る方が大事だ。
黒煙を目指しスラムを抜ける。つい一時間ほど前に訪れたそこは凄惨な場所となっていた。
火を消そうと住民が集まり必死に水をかけるも火の勢いは衰える様子もない。
薬品に引火もしたのか、妙な刺激臭も立ち込め必要以上に近づくことすら出来なかった。
「っ師匠!!」
「馬鹿!何やってんだ、焼け死ぬぞ!!」
「うるせぇな放せっ!!」
無策に燃え盛る家に飛び込んでいこうとするキールをエースとデュースが羽交い絞めにし押し留める。
現れたキールに消火活動を行っていた住民が気付き駆け寄ってきた。
「落ち着けキール、セトさんは無事だ!炎が上がる前に回診に出かけていたから」
「でも、でもあれじゃあ……!」
「キール君……?」
「あの中には、あの人の写真が……!」
セトの無事を知り安堵するも、続くキールの言葉に水琴は居間に飾られていた写真を思い出す。
はにかむ二人の若い男女。
もう二度と撮ることは出来ない、大切な思い出の写真を。