第102章 船医
「__お前、バカだろ」
静寂の中、エースの声がやけに大きく響いた。
「なんだって……?」
「なんでそこで“見ているだけ”に繋がんだよ。お前医者だろ。セトから最高の医学を学んだんだろ。なら、その医学で治してやりゃあいい話だろ」
「そんな簡単な話じゃねぇんだよ」
剣呑さを滲ませキールは低く呟く。
「治そうとしたさ。だけどな、あの病は現代の医学じゃどうにもならない。もう伝説に頼るぐらいしか手がねぇんだよ」
「じゃあ、お前の手で“その先の医学”を手に入れるぐらいしてみせろよ」
「医学が一歩先に進むのにどれだけの時間と労力が注ぎ込まれてると思ってんだ!個人でそう容易く出来るもんじゃねぇんだよ」
「それだけやる度胸がないだけだろ」
「んだと__っっ」
「ちょっとやめてよ二人とも!」
「落ち着けって!」
一触即発となる二人を離すべくデュースと二人で間に割って入る。
その胸を押しながら、水琴はエースを非難を込め見上げた。
「どうしてそう神経を逆なでするような言い方するのっ」
「アイツが諦めてるからだろ」
「諦めてる?」
「出来る、出来ないって、なんで勝手に決めてんだよ。そうじゃねェだろ」
どういう意味だ、と問おうとする水琴の背後で、がさりと物音が聞こえた。
すぐさま目を走らせれば武装した海賊たちが周囲を取り囲んでいた。よく見れば知った顔もある。先程キールにやられていた海賊たちだ。
顔をつぶされた報復といったところだろうか。覚えていろというのは嘘ではなかったようだ。