第102章 船医
「治療だけじゃなく薬も無償で渡してるんだな」
「あぁ。スラムの人達は薬を買う金なんて無いからな。ここまで回診に来る医者は他にいないし」
「立派な心掛けだ」
「別に俺が始めたんじゃない。師匠から受け継いだだけだ。__で、何の用だよ」
世間話をしに戻って来たんじゃないんだろ、と先を促すキールにデュースも本題にかかる。
「さっきは話の途中だったからな」
「話?……そういやお前ら、海賊だって言ってたな。デュースもそうなのか」
「あぁ。その上で、お前に提案があるんだ」
一緒に、船に乗らないか。
デュースの提案にキールは眉を顰める。何を言っているんだ、という様子だ。
「お前の事情は水琴たちから聞いた。師匠の目を治すために異世界の民を探しているんだろう?グランドラインに行けば、見つかるかもしれない」
「……そうか、あの後師匠の家に行ったのか」
余計なこと聞きやがって、と睨むキールの視線を平然と流し、余計な事なんか聞いてねェよ、とエースは肩を竦める。
「ただ、お前がセトに拾われて医学と刀を学んだって話を聞いただけだ」
「それを余計なことって言うんだよ。ったく」
あの人もなんでそんな話を海賊なんかに……と頭を抱えるキールに水琴は思わず口を開く。
「__セトさんは、異世界の民の血なんか望んでなかったよ」
「………」
「治すのなら、いつか医学で治したいって。キール君のこともすごく心配してた」
「……知ってるよ」
静かに、振り絞るように、キールは言葉を零す。
「知ってるよ。師匠がそんな治し方望んでないことも、俺の無茶を心配してることも。
__でも、それはあの人の気持ちだろ。なら、俺の気持ちはどうなるんだよ」
「キール君の、気持ち……?」
「師匠は俺に生きるチャンスと力をくれた。ようやくその恩に報いることができるかもしれないのに、何もしないでただ見ているだけなんてできるわけないだろ……っ」
キールの言葉に目を伏せる。大事な人が傷ついているのに、何もできないもどかしさは水琴には十分理解できた。
何でもいい。何か力になりたいとがむしゃらになる気持ちは、痛いほどよく分かる。