第16章 家族
「水琴は、人間だ。
おれ達のような、ろくでもない海賊相手にもまっすぐ接してくれて、不器用ながらも馴染もうと努力してる。
そんな水琴だから、おれ達は、一緒にいてェと思うし、助けたいと思うんだ」
頬に伝うのは、なんだろう。
次から次へと溢れる涙が、止まらない。
ぐるぐると、色々なことを考えていた水琴の心に、
エースの単純な力強い言葉は、まっすぐに突き刺さった。
「てめェのような糞野郎と一緒にすんじゃねェ」
「ぐ……っ」
エースの気迫に押されるように、ベルクが一歩後ろに下がる。
その際にメスが首から離れた隙をつき、私は力強くベルクにぶつかった。
揺れたメスが頬を切り裂く。
「貴様……?!」
体勢を崩したベルクが見たのは、一気に距離を詰めるエース。
グワッシャァァァアアアアアン!!!!
容赦ないエースの拳がベルクを捉えた。
飛行艇にぶち当たり、そのまま窓を突き破り共々に下の海へと落ちていく。
「もう二度とその面見せるな」
マッド野郎が、と毒づくエースの背中を見て終わったのだと理解した途端、へなへなと崩れ落ちる。
「水琴!大丈夫か?!」
エースが駆け寄り、いまだだらだらと血が流れる頬を痛ましげに見やる。
「大丈夫。すぐ止まるから」
簡単な怪我であれば一日あればすぐ治ることに薄々気づいていた水琴は安心させるように笑う。
思えばそれももしかしたら異世界の民の血の力だったのかもしれない。
私が笑うのを見て、エースはより一層眉を寄せる。
そしてそっと頬を撫でた。
「…身体の傷は消えても、心の傷はそうじゃねェだろ……」
その瞳に彼の闇もまた垣間見え、言葉をなくす。
心底心配してくれている様子に、血ではない温かいものが頬を伝うのを感じた。
「お、おい?!やっぱり痛ェんじゃ…?」
「違う、違うの……」
エース、と手を取る。
その手からじんわりと優しい熱が伝わってきた。
「助けてくれて、ありがとう」
はらはらと涙を零しながら、自然と笑みが溢れる。
「……もう、黙っていなくなんなよ」
「うん…うん……!」
黙って支えてくれるエースの手が優しかった。