第16章 家族
水琴が振るった腕がベルクの顔に当たった。
眼鏡が吹き飛び、ぶつかった衝撃で米神に血が流れる。
「……そうか、分かった」
冷たく見つめてくる視線に背筋が凍る。
「残念だが、しょうがない。
…死体で研究することにしよう」
すらりと取り出されるメス。
それが水琴を貫こうとした時、巨大な破壊音と共に窓が大きくぶち破られた。
「水琴!!無事か?!」
「あ…エース……」
何故かところどころ焼け焦げた姿でエースが立っている。
「貴様…どこまでも邪魔を!!」
ぐいっと乱暴に引き寄せられ、首に冷たい何かが押し当てられる。
それがメスだと分かり、水琴は身体を固くした。
「…てめェ、放しやがれ」
目の前のエースからは恐ろしい殺気が向けられている。
「分からねェのか。もうお前は終わりだ」
「ようやくここまで来たんだ!こんなところで終わってたまるか!」
「なぜそんなに異世界の民なんかに執着する?」
「はっ、知らないで奪い返そうっていうのか。滑稽だな」
ベルクの物言いにどきりとする。
やめて、言わないで。
もしも、知ってしまったら。
「異世界の民の血は万能薬に、肉は不老不死の秘薬に。
悪魔の実の能力者にとっては、その血は能力を高める悪魔の美酒となる。
それだけ知れば、手に入れようと躍起になるのも分かるだろう?!」
エースの瞳に拒絶が浮かんでしまったら。
「……そんなことで」
恐怖で動けない私の耳に静かなエースの声が聞こえる。
「そんな下らねェことで、お前はそいつを巻き込んだのか」
「下らない…?この存在は世界でも貴重な存在だ!お前たちも、所有していれば嫌でもその力の偉大さが分かるに…」
「所有なんて言うんじゃねェ!!!」
ベルクの言葉を遮りエースが怒鳴る。
その目は怒りに濡れていた。
「…おれ達はなァ。異世界の知識だとか。不老不死の血肉だとか、そんなものの為に一緒にいるんじゃねェんだよ」
弱いくせに、強がりで頼ることを知らなくて。
泣き虫のくせにいじっぱりで。
逃げたいくせに、誰かのために耐えている。