第102章 船医
「だからさっき飛び出していったのか」
「どういうこと?」
「俺もさっきキールに会ったんだよ。町で評判を聞いてスラムによくいるって聞いたから会いに行ったんだ。ちょうど治療の最中だったんで手並みを見せてもらったんだが、なかなかの腕前だった。セトって男もよほど良い師なんだろうな」
少し話もしたが、気さくで話しやすい奴だった、とデュースは続ける。医学の話で盛り上がったんだろうか。個人的にはとても気に入ったようだ。
「ところが海賊が通りに出たって聞いて急に飛び出していっちまってな。追いかけたんだが見失っちまったわけだ。その後お前らに会ったんだな」
「デュースも言うならやっぱあいつを仲間にしてェな。腕っぷしも良い上に医者としての腕も良いなら最適じゃねェか」
腹も落ち着いたのかエースがようやく会話に参加する。エースがそう言うのも分かる。だが水琴はあることが気にかかっていた。
「でも、キール君はセトさんの目を治したいんでしょう?なら、海賊にはならないんじゃないかな」
彼にはセトの目を治すという大きな目標がある。そのために異世界の民という伝説にすら縋ろうとしているのだ。
そんな状態で、果たして頷いてくれるだろうか。
「別に海賊になったって目は治せるだろ」
「そうだけど。いや、でもさあ」
「まぁ、俺たちがどうこう言ったとして、最終的に決めるのはキールだ。提案だけでもするのは悪いことじゃねぇだろう」
二人はキールを仲間にする気満々のようだ。
水琴とてキールが仲間になれば心強いと思う。しかし、今のままで仲間になってくれるとは到底思えなかった。
__あの子は、今あることに躍起になっていて……
セトの言葉が胸を過ぎる。
彼を仲間にするには、その心にかかる憂いを晴らさなければならないだろう。
しかし、それをセトは望んでいないのだ。