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【ONEPIECE】恵風は海を渡る【エース】

第102章 船医





 「私は元々遠い異国の地出身なのですが、剣の道を極めるため旅をしていました」

 その道中、彼女に会ったのです。とセトは昔話を語る。

 最初会った時はまるで迷子の子どものような表情をしていました、と語るセトの表情はもう何年も前のことだというのにまるで昨日のことを話すかのようだった。
 言葉から溢れ伝わる想いは今もまだ彼の胸に彼女が生き続けていることを水琴に伝えていた。

 「彼女の血の秘密も、共に過ごす中で知りました。その血を使い、多くの人を救ってきた。……けれど、皮肉ですね。万能薬も、彼女自身には効かない」

 共にこの地で開業医として過ごしていた彼女も治療薬の存在しない病に倒れ、帰らぬ人となった。
 この時ほど、自身を呪った日は無かっただろうとセトは語る。

 「彼女の力に甘え、医者としての腕を磨くことを疎かにしていた。もっと私に力があれば、彼女を救えたかもしれないのに」

 だからこれは報いなのです、とセトは自身の目に手を添える。

 「たとえ異世界の民の血で治るのだとしても、この目を治そうとは思いません。治すのなら、血ではなく医学でもって治したい。__そうでなければ、私にまたあれを目にする資格はないでしょう」

 セトの強い想いに水琴はそれ以上言葉を紡ぐことができない。
 代わりに水琴はそっと、知らないところで綴られていた同胞の人生を思う。
 写真立ての中の彼女を見る。幸せそうな笑顔に溢れた、美しい女性。

 きっと。
 故郷へ帰ることは出来なくても、彼女は幸せだったに違いない。


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