第102章 船医
「__なんでキール君は異世界の民を探しているんですか」
「私の目を治すためでしょう。病で視力が落ちましてね。私は見聞色の覇気を嗜んでいるので不自由はないのですが、あの子はどうしても治したいと聞かなくて」
あぁして海賊に喧嘩を売っているんです、と溜息をつく。
その様子からあのような騒ぎは今回が初めてではないのだと知れた。キールの行動を心底心配していることも。
キールの去り際の言葉からなんとなく予想はついていた。セトの迷いのない動きは確かに不自由していなさそうだが、見えると見えないでは大違いだろう。
水琴が知りたいことはその先だ。静かに、水琴は口を開く。
「……異世界の民の血があれば、治るんですか?」
「__貴女は優しいんですね」
返ってきた予想外の返答に戸惑い水琴はセトを見る。その見えない眼は確かに水琴を捉え優しく見つめていた。
「もしも治るなら、血を提供しようと思ったのでしょう」
全てを見透かしたような物言いに息を呑む。身体を固くする水琴に安心してください、とセトは言葉を続けた。
「貴女のことを明らかにするつもりはありません。異世界の民がどのような扱いを受けるのか、私はよく知っています」
「……なんで、私がそうだと分かったんですか」
「色が、似ているんです。貴女から感じる、魂の色が」
彼女に、と続けるセトの視線の先には棚に飾られた写真立てがあった。
まだ若いセトが女性と共に映っている。はにかむその笑顔から、親密な関係だったのだろうことが水琴にも分かった。