第102章 船医
突然の誘いを断る理由はない。
水琴もなぜ彼が異世界の民を求めるのか理由が知りたかった。
セトの案内で一軒の家へ辿り着く。スラムに程近い郊外はひっそりとしており家もまばらに数軒建つだけだった。
町医者というのだからもっと繁華街に店を構えていると思ったが、これは少々意外だった。
「辺鄙なとこに住んでんだな」
「結構静かなので療養にはいいんですよ。スラムの方にも顔を出せるので結構便利ですし」
その言葉からセトはスラムにも診療に赴いているということが窺えた。
診療室を通り抜け、奥の居住スペースへ案内される。
どこかワノ国を思わせる造りは水琴をほっとさせた。
「………」
「あの……?」
「あ、失礼。……知人に似ていたもので」
じっと水琴を見つめていたセトはお茶を出し、こほんと咳払いをする。
「セトさん。さっきの彼は……」
「あれはキール。私の弟子です」
「弟子ってのはどっちのだ?」
エースが言いたいのは刀か医者かということだろう。
「どちらもですよ。キールは孤児だったんです。スラムで死に掛けていたところを保護し、以来私の全てを教えました。刀の腕も医学も、今じゃこの町であの子に敵う者はいないでしょう」
「そりゃいいな。仲間になってくんねェかな」
「医者を探しているのですか?」
「あ、私たち船医を探していて」
「なるほど。キールが頷けばどうぞ連れて行って構いませんよ。ただ、あの子は今あることに躍起になっていて……素直に頷くかどうか」
ところで、とセトは隣のエースへ目を移した。
「そっちの彼は大丈夫ですか?」
見るとお茶菓子へ頭を突っ込んだまま眠っている。
ついさっきまで会話をしていたというのに、なんという早業だ。
「いつものことなのでお気になさらず」
むしろ好都合だ、と水琴は居住まいを正しセトへ向かい直った。