第102章 船医
「海賊なら、“異世界の民”って知ってるか」
「_____え、」
「異世界の民。知らないか」
聞こえてきた意外な言葉に水琴はぴたりと動きを止める。
なぜ彼は異世界の民のことを知っているのか。
そのことを知って、どうするつもりなのか。
戸惑いから言葉を失くした水琴と違い、エースは聞き慣れない言葉に眉を寄せた。
「なんだそりゃ。異世界ってなんだよ」
「知らないならいいんだよ」
元の通り鞘を腰に収めた青年はもう用はないと踵を返す。
その背を追うように人混みから一人の男性が飛び出してきた。
「キール!またお前は……!」
「げっ、師匠……!」
キールと呼ばれた青年は現れた男性を見て顔を歪める。
現れたのは丸眼鏡をかけた温厚そうな男性だった。和装に身を包んだ男性は開いているのか分からない細い目でキールを捉えるとしっかりとした足取りで彼の前に立ちその長身でキールを見下ろした。
「また海賊相手に暴れたのか!危ないからやめろとあれほど言っただろう」
「だけど!町ではもう見つからない。知ってる奴らは海賊くらいしかいないんだ!」
「だから私は構わないと__」
「師匠がよくても俺が構うんだよ!」
戦闘時の冷静さをかなぐり捨て、強く叫ぶキールは俯き震える拳をぐっと握った。
「__師匠の目は、俺が絶対に治す」
「キール!!」
男性が走り去るキールを呼び止めるが、その声を無視しキールは人込みへと消えてしまった。
溜息をつき、男性は傍に立つ水琴たちに気付く。
「失礼。お見苦しいところをお見せしました」
「……いえ。その」
「申し遅れました。私の名はセト。一介の町医者です。お詫びがてら私の家へ来ませんか?お茶などどうでしょう」