第102章 船医
そこにいたのは複数の海賊らしき男たちと一人の青年だった。
「__そうか、知らないのか」
こちらに背を向けて立つ青年の背丈はエースと同じくらい。
自分よりも大きな海賊に囲まれているにもかかわらず平然としている様子とその腰に下げた刀から戦いに慣れた者だと分かった。
「ならお前らに用はない。この町を荒らすんじゃねぇ。さっさと出て行け」
「出て行けと言われてそうですかと従う海賊がいるかァ?」
「ふざけたガキだ。やっちまえ!」
青年の物言いに憤慨した海賊たちが一斉に獲物を抜く。
ギラリと光るカトラスに周囲を囲んでいた人々はわっと距離を取った。
一気に緊迫感が増す空気の中、悠々と青年は刀に手を置き半歩片足を引いた。
構える青年に向かい海賊たちが一気に襲い掛かる。五本の刃が青年を切り裂こうと振り下ろされる瞬間、青年が動いた。
一閃。
ほんの瞬きの間に勝負は決していた。
抜いた瞬間すら見せない。気が付けば青年は海賊の間を走り抜けており、その背後で刀を収めるところだった。
チン、と澄んだ音と共に海賊たちの持つカトラスが折れその刀身が地に落ちる。
ただのガラクタと化した自身の獲物を信じられないというように見つめ、ようやく海賊たちは動揺と共に背後を振り返った。
「__次は武器だけじゃ済まさねぇ」
ようやく見えた、鋭い灰色の瞳が海賊を睨みつける。
「もう一度だけ言う。この町から出て行け」
「っお、覚えてやがれ__!!」
「悪いな、俺は無駄なことは覚えない主義だ」
陳腐な捨て台詞を残し走り去っていく海賊を青年は冷ややかに見送る。