第102章 船医
大航海時代だし、世の認識はそんなものなのだろうか。
なんとも言えないもやっとした気持ちを抱えたまま、水琴はメモに目を落とす。
「今はスラムの方に船を置いてるんだっけ。もしかしてチズルさんが言ってた住民への被害ってそっちで起こってるのかな」
「海軍の動きが遅いのもそれが理由かもな。賞金額もそんな高くねェし、小者がスラムで多少暴れてる程度じゃ重い腰を上げたりしねェってか」
「でも、実際困ってる人がいるのに__!」
「組織なんてそんなもんだろ」
こっちにとっては好都合だ、とエースは不敵に笑う。
「さっさとスラムに乗り込んでぶっ飛ばして、船を手に入れるとしようじゃねェか」
「……言っとくけど、まずはデュースと合流してからだからね」
本当に釘を刺さなければこのままスラムに突っ走っていってしまいそうである。
まだ少し早いがあまり外をうろついていて面倒ごとに巻き込まれても困る。
先に待っていようとエースを引っ張りながら酒場への道を歩いていれば、何やら通りの向こうが騒がしいのに気付いた。
「海賊だ!」
「またキールだ!」
聞こえてくる言葉にまさか件の海賊かと嫌な予感が走る。
そっと隣を窺えばその目が期待に光るのが見えた。
__まずい。
「ぐえっっ」
走り出そうとするエースの襟首を咄嗟に引っ張る。
案の定騒ぎの中心に飛び込もうとしていたエースは締まる首に呻き声を上げた。
「何すんだ!」
「さっき言ったでしょ。乗り込むのはデュースと合流してからだって」
下手に騒ぎを大きくして船や船医の当てがないまま海軍とかち合ったらどうするつもりなのだ。
もちろん住民に危害を加えるようなら遠慮するつもりはないが、今どんな状況か分からないまま突っ込むわけにはいかない。
まずは様子を見ようと渋るエースを引っ張りこっそりと人混みの間から覗きこんだ。