第102章 船医
「__うるさいよ、少しは老人を労わんな」
杖を突き、老年の女性がドッグの奥から現れた。
腰は曲がり足腰も弱っているようだがその眼光は鋭く老いを感じさせない。
チズルと呼ばれたその人はドッグの入り口に立つトウドウをじろりと見上げた。
「トウドウか。生きていたのかい」
「おォ、しぶとくな」
「村のことは聞いた。酷い話さね。何が魚人だ、ふざけるにもほどがあるよ」
「……ありがとよ」
それはそうと!とトウドウが話題を切り替える。
「実はこれからグランドラインへ渡ることになってな。船を用立ててほしいんだ」
「なに、グランドライン?」
チズルはトウドウの陰に立つ水琴たちにその鋭い視線を送る。
「あァ。でかくて強そうな船を頼むばあ__」
ばあさん、と言い掛けたエースの口を背後からデュースが塞ぎ、同時に水琴が後方に押しのける。
デュースとの連携で一瞬にしてチズルの視界からエースを消した水琴はにこりと愛想の良い笑みをチズルへと向けた。
「__っ!__!!」
「口のなっていない若造ですみません。グランドラインへ入るのに船が必要なんです。何か丈夫で少人数でも操作できる船はないでしょうかチズルさん」
「そっちの小娘は少しは礼儀を知っているようだね」
一連の流れをなかったかのように流し話を進めるチズルと水琴の背後で、未だデュースに抑えられたままのエースに向かいトウドウはひそひそと口を寄せる。
「馬鹿。お前チズルさんは“ばばあ”とか“ばーさん”とかの言葉に敏感なんだ。絶対に耳に入れんなよ」
「聞こえてるよ」
耳打ちするトウドウの鳩尾に杖がめり込む。
地に沈みもがく男を無視し、チズルは水琴へ目を向けた。
「金はあるんだろうね」
「少しは」
「ついてきな」