第101章 航海士
「おい!陸が見えてきたぞ!」
船首からエースの声がした。
その声に先を見れば確かに僅かに陸が見える。
「おォ、あれだあれだ!」
嬉しそうにトウドウが声を上げる。
エースの声を聞きデュースも甲板へ出てきた。言葉の通り見えてきた陸に感心するように目を見開く。
「海図もなく、現在地も分からない状態で目的地にたどり着くなんて、よっぽど腕がいいんだな」
「同じように見えても海は一つとして同じところはねェ。潮の香り、海の色、お天道様の機嫌さえ分かれば辿り着けねェ場所なんてないってもんよ」
デュースの言葉にさらりと答えてはいるが、それは途方もない技術だろう。
これだけでトウドウの航海士としての腕がどれだけ高いか分かるようなものだ。
「村を目指して三ヶ月……長かった」
トウドウの呟きが聞こえる。
「とうとう帰ってきた。イーリス村に」
「………」
「これは……」
「そんな……」
トウドウに言われた場所に船を止め、村へ向かった三人の目の前に広がっていたのは荒れ果てた建物だった。
道はえぐれ、家は床から引っ繰り返されているものもある。
僅かな希望を求めて村中を回ったが、人の気配はない。
村は完全に廃墟となっていた。
黙り込むトウドウの背に何も言うことが出来ない。