第101章 航海士
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「トウドウさんの村ってどんなとこなんですか?」
舵をとっていたトウドウに水琴は尋ねる。
「小さいが、素朴な良い村だ!村のもんは大体が漁師や真珠の採集に関わってる。今までずっと、海と共に生きてきたんだ」
その眼差しから、本当に村を大切に思ってることが窺える。
「嬢ちゃんは故郷はどこなんだ?」
「私は……」
なんと言えばいいか迷う。
水琴の故郷はこの世界には無い。
適当に誤魔化すことも考えたが、真剣に村のことを話してくれたトウドウにそうするのも違う気がした。
「__私の故郷は、ずっとずっと遠い所にあるんです」
「ってェと、違う海か?西?それとも南か?」
「いいえ。もっと、もっと遠くです。……もう二度と帰れないんです」
静かな住宅街に佇む教会。
庭で駆け回る兄弟達と、優しく見守るシスター。
自分で選んだことだとしても、未練がないわけではない。
一生この気持ちは消えないだろうと水琴は思う。
「……後悔してるのかい」
「いいえ」
きっぱりと水琴は否定する。
未練はあっても、後悔はない。
「自分の選択が、間違っていたとは思いません」
船首の下で先を見ているエースを見つめる。
そしてその先に、遠い未来の仲間を想った。
「たとえ、二度と帰ることができなくても。私はここが好きなんです」
「……そうかい」
ぽすんと頭を撫でられる。
その手はどこか遠い未来で待つ家族たちの手と似ているように思えた。