第101章 航海士
「……軽い脱水と栄養失調だな。意識が戻れば経口補水液でも飲ませるんだが」
「じゃあ用意しとくね」
呼吸は穏やかなので命の危険はそんなにないだろうと言うデュースに後ろから覗き込んでいた水琴はほっと息を吐く。
「身体が冷えているのも気になるな。エースはタオルを__」
顔を上げたデュースの腕を男の手ががっしりと掴んだ。
意識がないと思っていた三人は突然の男の行動に身構える。
目を閉じ横たわる男はデュースの腕を掴んだまま、乾く唇を僅かに動かした。
「め……めし……」
「「「………」」」
ぐぎゅるるる、と響く腹の音と共に絞り出された男の声に、三人は沈黙で応えたのだった。
***
「いやァー!うまかった!」
ダイニングで水琴が用意した料理をものすごい勢いで平らげた男はようやく元気になったのか豪快に笑った。
「いやいや、助かったお三方!船が難破してあの板に掴まり漂って三日!もう駄目かと思ったが、どうやらお天道さんは俺を見捨てちゃいなかったみてェだな!」
大工の棟梁のような格好に頭に手ぬぐいを巻いた男は喋り方も相まってなんだか江戸っ子みたいな人だ。
大柄で一見威圧感を与えそうな風体だが、親しみやすい笑顔と快活な口調がその雰囲気をあっという間に“面倒見のいい兄ちゃん”に塗り替えていた。
「俺はトウドウ!この近くの村で漁師団の団長を務めてる。先生とあんたらカップルには偉い助かったわ。感謝感謝」
「ばっ、カップルじゃねーよ!」
目の前に座っていたエースが即座に怒鳴り否定する。
強い口調のエースにも臆せず、トウドウはまた大きな口で笑った。
「はっはっは!そうか、すまんすまん。……兄弟か?」
「兄弟でもねェ!おれ達は海賊だ!!」
「海賊ゥ??」
エースの言葉にトウドウは笑顔を引っ込め三人をじろじろと眺める。