第101章 航海士
ばしゃん、と船から離れたところで波しぶきが上がる。
イルカでも跳ねたのかと思い、水琴はそちらに目をやった。
イルカとは違う。一瞬水琴はその色合いからシャチかと思った。だがシャチにしては何か妙だ。
どことなく動物園の人気者を彷彿とさせる模様のその妙な魚は海面から飛び出したかと思えば、激しく海面を打った。
そのまま一度沈み、力なく浮かび上がった大型の魚の横にエースが顔を出す。
「釣れたぞ、パンサメ!」
得意げにこちらを見るエースに嘘だろ、とデュースが力なく呟いた。
「海のど真ん中でサメ狩るか普通」
山でワニを狩ってたのだからあり得なくはない。
さっき血を見つめていたのはそういうことか、と水琴は合点がいき溜息を吐いた。
サメは嗅覚が鋭い。僅かな血の臭いも遠くから嗅ぎ分け獲物を見つけるという。エースは自身の傷口から垂れる血の臭いであのパンサメをおびき出したのだろう。
まさかパンサメの方も自身が食われる立場になるとは思ってもなかったに違いない。
エースの獲ったパンサメはあまりにも大きかったため、甲板で解体してからキッチンへ運ぶこととした。
甲板でエースが作業し、それをデュースがキッチンへ運び、水琴がさらに細かく分け保存処理を施していく。
これだけあればしばらく保存食には困らないだろうが、しまう場所に困るなと水琴はぎっしり詰まった小さな冷蔵庫を見て思った。
「水琴、これで最後だ」
「ありがとう。エースは?」
「甲板を片付けてる」
詳しくは言わないが、血やら何やらで大層汚れてしまったことだろう。
ここ終わったら手伝いに行くね、とさっさと終わらすために水琴は包丁を握りしめた。
「デュース、ちょっと来てくれ!」
甲板からエースの声が響く。
掃除の手伝いを願う声かと思いきや、人だ、と続く声にデュースは足早に甲板へ向かった。
水琴もひとまず包丁を置き様子を見に行く。甲板に出れば大柄な男性が横たわっており、その脇にエースとデュースが膝をついていた。