第101章 航海士
ほら頑張って、と水琴が促せばエースは渋々と起き上がり再び竿に餌をつけ始めた。
しかしやる気が下がっているからかその手元はおぼつかず、餌の代わりに指先を針に刺してしまい「いて、」とエースは小さく声を上げる。
「あーあ血出てる。傷テープいる?」
「これ位じゃいらねェよ」
僅かに滲んだ血を舐めとろうとして、エースはふとその指先を見つめ何やら考え込む。
どうしたの?と覗き込めばエースは突然立ち上がった。
「え、え、どうしたの??」
目を白黒とさせる水琴に何も答えずエースは突然服を脱ぎ始める。
上だけでなくズボンまで脱いでいく様子にさすがの水琴もぎょっと目を向いた。
「ちょ、ちょっとエース?!」
上半身裸のスタイルは未来のエースで見慣れているとはいえ、急に目の前で脱がれれば目のやり場に困る。
デュースもまた突然下着姿となったエースに怪訝な視線を向けていた。
「何やってんだ?」
「魚獲ってくる」
まさか潜る気か?と思っている間にナイフ片手にエースは甲板から海へ飛び込む。
一度海面に浮上したエースは大きく息を吸うとすぐに海中へと潜っていった。
その様子を手すりから覗き込んで眺めていた二人は顔を見合わせる。
「……一応聞くけど、素潜りって浅瀬でやるもんだよね」
「普通はな」
「こんな海のど真ん中で潜って、ナイフだけで魚って獲れるものなの?」
「普通は無理だな」
穏やかな日差しが甲板をじんわりと温める。
しばしの間静かな時間が流れた。