第100章 仮面の男と新たな仲間
嫌だけど。本当に嫌だけど。
さすがに緊急時にそうも言っていられない。
もう一度甲板の様子を見て寝入っていることを確認し、水琴はデュースと共に崖へ向かう。
下りてきた時と同様大きく迂回しながら慎重に登っていくデュースを見守りながら、水琴は祈るように手を合わせていた。
背後の気配に嫌でも意識がいく。静かな気配に、どうかそのまま眠っていてくれと心の中で念じ続けた。
その甲斐があるのかないのか、何事もなくデュースが八割方登り切る。あと少し、垂直に近い部分を登りきれば辿り着く、そんな時だった。
海風が大きく吹く。海は荒れ、崖に叩きつけられた波は岸壁を抉った。
岩の間に挟まり乗り上げていた船は支えが崩れたことで大きく揺れる。甲板で蛇眼がゆっくりと開いた。
「ッ危ない!!」
気配に気づいた水琴は咄嗟に風を生む。風の勢いに押され、そのトカゲモドキは飛び掛かろうとしていたデュースから離れた崖の一部に張り付いた。
どうやらあの皮膜は自由に飛べるようにはできていないらしい。モモンガやムササビのように風を受け滑空することが主な用途のようだ。
しかし空中から狙われないとしても、あの巨体で暴れ回られたら崖にいるデュースが危ない。飛び掛かる隙を窺うように崖から首を伸ばすそれに向かい合うように水琴は空中に留まった。
「何してる!早く逃げろ!」
水琴の背にデュースの焦った声が投げ掛けられる。それに対して応える代わりに水琴は腕を前に構えた。
「矢風!!」
鋭い風の矢が巨体へと向かう。両側から放たれた矢は、しかし分厚い皮膚に阻まれあっという間に霧散した。