第5章 慣れてきた時こそ
元々入学時から飯田さんの何も恐れぬ真摯な発言力には目を見張るものがあった。疑問に思ったことは後回しにせずに直ぐに問う。まぁ深く考えすぎてしまうのは玉に瑕かもしれないがそれも長所になりうる才能だ。そして何よりとてもよく響き、よく通る声。”大きい声”ではなく”よく通る声”だ。大きい声だけなら誰でも出せるが、人の心に訴えたり、人の心を動かす声というのはそう多くはいない。それこそ私はうろ覚えだったが聞いた話では先程の侵入騒動での飯田さんの行動と発言でパニックだった生徒達が落ち着きを取り戻したらしい。これこそ誰にでも出来る訳じゃない。きっと私には無理な事だ。
『大丈夫。飯田さんには皆を纏めあげる才能があるよ。私が保証する』
そう言って右手の親指をグッと立てると飯田さんは何やら目を大きく見開いて唇を噛み締めた。
「そう、か…ありがとうな」
『うん?いえいえ』
飯田さんのお礼の意図はよく分からなかったがとりあえず返事をしておいた。結局私の票で飯田さんが委員長になれた訳では無いから彼からお礼をされる理由はないと思うのだけれども…
『あれ、そういえば百ちゃんは?』
私はふと教室の何処にも百ちゃんがいない事に気が付き飯田さんに百ちゃんの所在を尋ねる。
「あぁ、八百万くんなら君が倒れたと聞いて今は親御さんに連絡しているそうだよ」
『そっか…』
また百ちゃんやお母様、お父様に迷惑を掛けてしまったと思い私は申し訳ない気持ちになった。家に帰ったらしっかりと謝っておこう。
後は…そうだ爆豪さんにお礼を言わないと。
『あの、爆豪さん』
「んだよ…」
私が爆豪さんの机の傍に行くとやはり爆豪さんはあからさまに嫌そうな顔をする。話しかければ彼の機嫌を損ねてしまうのは分かっていたが、お昼の件でお礼を言わないのは私のポリシーが許さないのでしっかりと伝える。
『お昼はありがとうね』
「別に、てめェにかりを作りたくねぇだけだわ勘違いすんなよ」
『それでもありがとう』
「チッ…」
舌打ちを打たれてしまった…やはり爆豪さんはまだよく分からない。私は彼の舌打ちにほんの少しショックを受けながらも、今日は色々と大変な日だったけど爆豪さんが意外と良い人だと分かったのでまぁ良かったかな。と頭の中でポジティブに変換しておいた。