第5章 慣れてきた時こそ
私は保健室から教室にへと戻り教室の扉を開く。
「言くん!体調は大丈夫か?!」
すると誰よりも早く私の存在に飯田さんが気が付き、自身の席から立ち上がり私の体調の心配をしてくれる。
『うん、大丈夫だよ。心配ありがとう』
「いや!これも委員長としての務めだからな!」
『委員長…?』
キョトンとする私を見て飯田さんはハッと思い出した様に緑谷くんの推薦もあり先程学級委員長に任命されたのだと説明してくれた。
『そっか。うん、さまになってるよ』
私は少し口角を上げて微笑みながら両手を合わせて彼にそう伝えた。しかし飯田さんからのリアクションは無く、何故か私の顔を黙って見つめていた。そして彼は一瞬悩んだ仕草を見せて口を開く。
「言くん…これを君に聞いてしまうのは些か不躾かと思ったがやはり気になったから質問させて貰う…」
『うん?』
「先の委員長決めの投票…あの投票で俺に票を入れたのは君だそうだな」
『え、うん。そうだよ。でもなんでそれを知っているの?』
「すまない!!どうしても俺に票を入れてくれた人物が気になって相澤先生に問いただしてしまった!!本当にすまない!」
『わ!わ!そんなに謝らなくても大丈夫だよ。それに相澤先生が教えてくれたってことは問題が無いから教えてくれたんだろうし』
飯田さんが大きく頭を下げたことでクラス中の視線を集める。私はそんな視線に耐えきれず、急いで飯田さんに頭を上げてもらうように促した。そして飯田さんは「かたじけないっ…!!」とまるで武士のような謝罪をして顔を上げた。
「それで…えっと…何故俺に票を入れたんだ?俺はてっきり君の姉の八百万くんに入れたのだと思っていたよ」
『まぁ、最初は百ちゃんに入れようかなと思っていたのだけれど……飯田さんの声って”よく通る声”なんだよね』
「よく通る声…?」
『うん。よく通る声。そういうのって皆を纏めあげるのにはとても必要な才能だよ。後は飯田さんの咄嗟の発言力とかかな?そういう所も加味して飯田さんに投票したの』