第5章 慣れてきた時こそ
「…んっ」
私は小さな声を漏らして目を覚ます。ゆっくりと瞼を開くとぼやけている視界が徐々にハッキリしていく。そして辺りを見回すと目の前には白い天井があり、私を囲うように白いカーテンが垂れていた。またツンと鼻を刺すような消毒液の匂いもした。どうやらここは雄英高校の保健室のようだ。
「おや、目が覚めたかい」
『その声は…リカバリーガール?』
カーテンの向こう側から声をかけられた私は向こう側にいるであろう姿の見えない人物の名前を半信半疑で呼んだ。ギィと椅子を引く音が聞こえて暫くすると私を囲っていたカーテンが開いた。私の目の前には予想通り雄英高校の女性看護教諭であるリカバリーガールが杖をついて立っていた。
「あんたさっき意識を失ってここに来たんだよ覚えとるかい?」
『はい、何となくは…』
「爆豪って子がさっきあんたを抱き抱えてここまで運んで来たんだよ」
『えっ、爆豪さんが…?!』
本当にまだ出会って日が浅く失礼かもしれないがあの爆豪さんが私を抱えて保健室まで運んでくれたという出来事に驚く。彼なら倒れた私をその場に置いていく…なんて事はしないだろうが、そこら辺の人に任せるだろうと思ったからだ。
「体調は大丈夫そうだね教室に戻ったらお礼を言うんだよ」
『はい、わかりました。ご迷惑お掛けしてすいません』
私はリカバリーガールに頭を下げる。
「そういやあんた”あの秘密”知ってるんだってね」
『偶然ではありますが』
「そうかい…あの秘密を知るということは大変な事だからね何かあれば私に相談しなさいね」
『…はい!ありがとうございます!では失礼しました』
私はリカバリーガールにお礼を伝えて保健室の扉の前で頭を深く下げ、静かに扉を閉め教室にへと戻って行った。
そして言を見送ったリカバリーガールは1人、静かになった保健室で椅子の背もたれに体を預けギィと音を鳴らした。
「あの子…これから大変だろうね…」
そんなリカバリーガールの呟きは誰の耳にも届くことなく静かに消えていった。