第24章 始まりの終わり 終わりの始まり
そんな鋭児郎を見て私は黙って背中を撫でた。
「…っごめん、”あの時”…手!掴んでやれなくて…!」
”あの時”とは合宿所で荼毘に連れ攫われる前の事だろう。あの時、鋭児郎は私に手を伸ばしてくれたがあと少しのところで手が届かずに私は荼毘に連れ攫われてしまった。でもあれは鋭児郎のせいなんかじゃない。私が弱かったのが問題で鋭児郎は何も悪くない。しかしそれを口にすることはしなかった。その事を伝えたって鋭児郎はきっと自分のせいだと責め続ける。だから私が鋭児郎に伝えるべきことは決まっていた。
『鋭児郎…なら次に私がどうしようもなくなったり、ピンチの時は手を差し伸べて救けてね』
鋭児郎の心の奥底にまで届くように、優しさと想いを込めて彼の耳元で彼の髪を優しく撫でながらそう伝えた。すると鋭児郎は私の言葉を聞いて首を縦に振り、先程よりも私を強く抱きしめる。でも痛みはなくて、壊れ物を扱うようにそっと私を包み込んでいる…そんな抱きしめ方だ。そしてしばらくすると鋭児郎は私からゆっくりと腕を離した。
「言悪い…取り乱して」
鋭児郎は頑なに顔を見せようとせず、俯きながら喋り出す。
『…大丈夫だよ』
鋭児郎の耳を見ると真っ赤になっていて私もそれにつられて顔を少し赤らめる。
「あの、嫌だったら殴ってくれて構わねぇから…」
『ほ、本当に大丈夫だから!嫌とかでは無かったし、寧ろ私も少し助かったというかなんと言うか…』
「えっ…?」
私は自分が爆弾発言を口にしてしまった事に気がつかず、鋭児郎は私のその発言に驚き顔を上げた。
『えっ…あ?!あ、違くて!嫌、違うと言うとあれだけど違くて…あ〜!とりあえず私、部屋に戻るね!じゃあね鋭児郎!』
彼の驚いた反応を見てハッとした私はベッドから降りて鋭児郎の部屋の扉のドアノブに手を掛け、慌てて部屋から出る。
『私は何を言っているの…!』
私は顔を真っ赤にしながらその顔を覆うように両手を当てて自分の部屋にへと猛スピードで戻って行った。