第23章 神野の悪夢
「君が初めて怪我をせずに窮地を脱したことすごく嬉しい。これから私は君の育成に専念していく。この調子で…頑張ろうな」
そう言って広げた片腕で緑谷くんを優しく優しく抱きしめた。
「うっ…オル…オールマイト、僕っ…ううっ…ああ…」
緑谷くんはオールマイト先生に縋り付きながら嗚咽を漏らす。
「君は本当に、言われた事を守らないよ。その泣き虫をなおさないとって言ったろう」
そう言ったオールマイト先生も泣いていて、私はそんな2人を少し離れて見守っていた。
「言少女」
するとオールマイト先生に優しい音色で名前を呼ばれる。
「君もよく頑張ったね。あの中で…きっと怖い思いをしただろうに私の為にオール・フォー・ワンに立ち向かい、守り、鼓舞してくれた」
オールマイト先生の瞳は真っ直ぐと私の目を見つめた。その瞳からこっちにおいでと言われているような気がして私は緑谷くんを抱きしめているオールマイト先生の隣に立つ。
「ありがとうな”ヒーロー”」
『……あっ……そん、な私…何も、してないです…私がもっと強ければ!攫われなければ!オールマイト先生をこんな形で……!』
私はその場にしゃがみこみ声を震わせる。そしてオールマイト先生が私の口の前で人差し指をたてる。
「それ以上先は言ってはいけないよ。君は私を守ったそれは紛れもない事実。だから…背負い込まないでくれ。君の事だ事件後ずっと考えてたいたのだろう」
私は顔を両手で覆い、声を出さずに肩を細かく震わせて静かに泣きながらコクコクと縦に首を降る。
『…ごめんなぁさいぃ……オールマイトォ……』
「だから謝らなくていいって…存外、君も泣き虫だよな…ほんとに君たちは手がかかる」
オールマイト先生は泣き笑いながら細い細い片腕で私たち2人を抱きしめてそう言った。体に伝わるオールマイト先生の温もりが生きている事を感じさせてくれて…そして、オールマイト先生が引退してしまう事も事実なのだと実感させられた。