第23章 神野の悪夢
「…消えたいだなんて言わないでくれ」
唇が離れるとホークスは悲しげな表情で言を見つめた。
「君がこの世界からいなくなったら俺は…」
お世辞にも綺麗な世界で生きてきたとは言えない自分の人生で初めて出会った大事な人で、ずっと一緒にいたいと思える人。大袈裟に言ってしまえば生きる希望とも言えるかもしれない。そんな彼女がこの世界からいなくなってしまってはきっと自分を保てることは出来ないだろう。
「言ちゃんが生きているだけで…それだけで俺は……堪らなく嬉しいんだよ」
───雄英高校ヒーロー科が林間合宿中にヴィラン連合に襲われたと連絡が入った時、真っ先に言ちゃんの事が頭に浮かんだ。でもきっと大丈夫、あの子は強い子だから無事に帰ってきてまた笑顔を見せてくれると信じて疑わなかった。しかし俺のもとに届いた連絡は最悪のもので、ヴィラン連合に連れ攫われてしまったと聞いた時は自分を制御する事が出来なかった。上の反対を押し切ってでも神野区に行こうとした。でも許されなかった。許さなかった。君よりも……俺はこの先の…未来の平和を優先したんだ。そしてテレビの画面越しで見たオール・フォー・ワンに立ち向かう言ちゃんの姿に俺は罪悪感で胸がいっぱいだった。
「……俺だって最悪の人間なんだ…」
───君の隣に立つ資格も、君を抱きしめる資格も、君に恋をする資格もないぐらいに俺は最悪の人間なんだよ……