第22章 途方もない悪意
隣の部屋にへと続く道を歩きながら荼毘は言に向けてなんの意図があってか気さくに話しかけてくる。
「八百万言ちゃんだっけ」
『気安く呼ばないで頂けますか』
突然ちゃん付けで呼ばれた事に嫌悪感で心が埋め尽くされた言は明らかに嫌そうな顔を浮かべてそう冷たく言い放った。
「言ちゃんは轟焦凍とはどういう関係なの」
しかし荼毘はお構い無しに話を振ってくる。しかもその話があまりにも突拍子もない内容なのだから言は先程募らせたイラつきを蘇らせる。
『いきなりなんなんですか。と言うか今私が個性使える状態なの気付いています?』
自分の個性はきっとヴィランたちにバレている筈なのに何故か拘束されているのは腕だけ。その事にずっと疑問を抱いていた。個性を使われても問題ないという事なのかはたまた単純に見落としていたのか。どちらにせよもういっそこの男だけでも気を失わせてしまおうかと思ったその時、荼毘は廊下の壁に言を追いやり、片手を彼女の顔の横についてもう片方の手は彼女の顎を掴んだ。
「そっか。ならその口塞いでしまおうか」
『っ…!何考えてるんですか!!』
「じゃあ焦凍とはどんな関係?」
そんな荼毘の言動に鳥肌を立てて、顎に当てられた彼の手を振り払うように顔を勢いよく横に振った。そしてキッと荼毘を睨みつけたが胡散臭い程にいい笑顔を向ける彼に何故だか圧倒され、汗を流しながら渋々と質問に答える。
『……普通にお友達ですけど』
「は?友達?」
『…そうですよ』
質問に答えてやったというのに荼毘は呆気に取られた表情で同じ言葉を聞き返してくる。本当に理解し難い彼の言動に言は低いトーンで頷いた。
「……ぷっ…あはははは!そうか友達か!!」
『何がおかしいんですか』
一拍置いて突如大きな声で笑い始めた荼毘に言の怒りはもう少しで限界点にまで達してしまいそうだった。
「いや、何でもないさ。こちらの問題だ」
未だ壁に手をついて言の前に立つ荼毘は薄気味悪い笑みを隠すように片手で自身の顔を覆った。またその手の間から覗かせた青い瞳と視線が合う。
「いやしかし…これで面倒な事をしなくて済む」