第22章 途方もない悪意
「切島落ち着けよ。こだわりは良いけどよ今回は……」
「飯田ちゃんが正しいわ」
積もる後悔を吐き出すように声を張り上げる切島の横で、彼の行おうとしている行動に待ったをかける上鳴と蛙吹。
「飯田が皆が正しいよ。でも!!なァ緑谷!!」
言いようのない悔しさを浮かべた表情で飯田の方に向けていた体を動かして緑谷に向き直り、右手を差し出す。
「まだ手は届くんだよ!」
あの時、届かなかった手をもう一度握りに行くために。伸ばしてあげられなかった手を差し出すために。切島と轟は覚悟を決めた面持ちでこの場に立っていた。
「ふっふざけるのも大概にしたまえ!!」
彼らの言葉に飯田の怒りは頂点に達した。そして他の皆も飯田同様に救けに行こうとする切島と轟に苦言を呈した。彼らの心情も分かる。でも誰だって悔しい。救けたかった。……しかしあの時、個性を使用してヴィランと戦えたのは相澤が自身の立場を天秤にかけてでも生徒たちが無事に、生きて戻れるようにとの熟考の末の戦闘許可のおかげ。もしまた個性を使ってヴィランと戦うのであれば相澤の信頼を裏切る行為でもあり、ヴィランとなんら変わらない行為なのである。だからこそ今回は感情で動いていい程軽い話では無いのだ。
「お話し中ごめんねー緑谷くんの診察時間なんだが……」
話し合っている所で緑谷の診察の時間に入り重苦しい雰囲気から逃げるようにクラスメイトは病室を後にした。そして飯田が病室を後にする時、最後まで緑谷の前に立っていた切島が口を開く。
「八百万には昨日話をした。行くなら即行…今晩だ」
小さな声で緑谷に言葉を投げる切島。飯田は彼の言葉に耐え難い感情を募らせ足を止めた。
「重症のおめーが動けるかは知らねぇ。それでも誘ってんのはおめーが一番悔しいと思うからだ」
覚悟は決まっている。どれだけ揶揄されようと、どれだけ怒られようとこの機会を逃す訳には行かなかった。
「今晩…病院前で待つ」
重いその言葉は切島と緑谷だけになった病室に響き、運命の夜を迎える。