第22章 途方もない悪意
「イレイザーおまえ何してた!」
「悪い戦闘許可を出しに行ったつもりが洸汰くんを保護してた、預かっててくれ。俺は戦線に出るブラドは引き続きここの護衛を頼む」
相澤先生の言葉通り部屋の入口の前には保護された洸汰くんが立っていた。余程怖い思いをしたのだろう、顔が真っ青のままその場で立ち尽くしていた。
『洸汰くん、大丈夫?』
私と鋭児郎は背丈を合わせて洸汰くんに近寄り話しかける。
「確かマンダレイの従甥の子だよな。こんな中1人でいたのか?」
『とりあえず部屋の中に…』
「……僕、ありがとうって言えなかった」
洸太くんを部屋の中に案内しようとすると彼の小さな口から、か細く震えた声で言葉が生み出される。
「ごめんなさいって言えなかった……あんなにボロボロになりながら……僕っ酷いことばっかりしたのに…酷いことばっかり言ったのに…どうしようあのお兄ちゃんが死んじゃったら」
後悔の色を乗せた声が、不安と恐怖の色を乗せた声が耳に流れ込んでくる。
「マンダレイがママとパパみたいにいなくなっちゃったらどうしよう……」
ズボンの裾を強く握りしめて腕を震わせ、まだ幼い瞳からは大きな雫が零れた。そんな洸太くんの姿を見て私は咄嗟に彼を抱き寄せる。抱き寄せた小さな体は嗚咽を漏らしながら小刻みに震え、今にも壊れてしまいそうだった。
そして名前が出なくても緑谷くんが洸太くんの為にボロボロになってヴィランと戦った事を理解することが出来た。今も緑谷くんは足を止めずに動いている。そう思うと今、自分がやるべき事を考えさせられる。
(私が今できること……)
私は抱きしめていた洸太くんをゆっくりと放して彼の肩に手を当てる。
『大丈夫。緑谷くんもマンダレイも他の皆も大丈夫だよ。緑谷くんはすぐ無茶して怪我をするけど絶対に帰ってくる。そういう人だから』
指で洸太くんの涙を優しく拭いながら笑顔を向ける。
『だから緑谷くんが帰ってきたらいっぱい、いっぱい!ありがとうって行ってあげて。ありがとうはね、誰かに言われるとすごーく嬉しい気持ちになる素敵な言葉だから』
「…うん!」
───これが私の…今できること。私が弱々しいことや悲しいことを思ったり言っちゃダメだ。だって私の個性は言霊なのだから。前を向けるような勇気を貰えるような…そんな言葉を口にしなきゃ。