第21章 林間合宿
私が心の中で穴があったら入りたいと考えている時、左斜め前の席にいた鋭児郎がスマホを見ながら口を開いた。
「乗り物酔いに効くツボがあるらしいぜ!手首から指2本分下んところを押すといいらしい」
「わかった」
私が乗り物に酔ったと聞いた鋭児郎は私の為にわざわざ調べてくれたのだろう。その事に私は感謝と謝罪を心で繰り返すと隣の席の轟くんが自然とその役目を請け負い私の手を持とうとする。だが彼の指が私の手に触れようとしたとき、轟くんはハッとその顔を強ばらせた。
「……俺じゃダメだ……」
「どうしたの、轟くん」
自分の手をじっと見つめ深刻そうに呟いた轟くんに緑谷くんが声をかけ周囲の注目も集まる。
「俺が関わると手がダメになっちまうかもしれねえ…」
「「は?」」
至って真剣そうに呟いた轟くんの意味の分からない発言にクラスの大半は不思議そうに首を傾げたり眉を寄せたりした。しかしその中で私と緑谷くん、飯田くんだけは違った反応を取る。
「「ハンドクラッシャー…!」」
その言葉の後に緑谷くんと飯田くんはブッと吹き出す。そして2人に釣られて私も口元を抑えて笑みを零す。
『ふふっ…あはは!ご、ごめん轟くん!そんな目で見ないで!まだそれ気にしてたのかなってっ…!』
バスの車内で保須の時のハンドクラッシャー発言を知っている私と緑谷くん・飯田くんだけが大きく笑い始め、その事を知らない他の皆はきょとんとしている。ハンドクラッシャー発言に至って本気な轟くんは笑い始めた私たちをみて一瞬冷たい視線を向けた。
「俺にはお前のツボは押せねえ……誰か代わりにやってくれ」
『大丈夫だよ、轟くん。なんか今ので元気出ちゃった!ありがとうね』
どうしようかと悩んでいた乗り物酔いの嘘は轟くんのハンドクラッシャー発言のおかげで酔いが覚めたという事にできた。その後は皆でしりとりやクイズをしたり、峰田くんの微妙にいい話みたいなそうじゃない話を聞き、今は梅雨ちゃんの怪談話を聞いていた時
「…お前ら、うるさい。もうすぐバス止まるぞ」
相澤先生が不機嫌そうに振り返りそう言うと車内は一瞬で授業前の教室のように静まった。