第18章 期末演習試験
言が悩み思い留まっているその頃、百は個性を使って体の至る所からマトリョーシカを出していた。いつ相澤が近くに現れても気がつけるようにと轟が百に指示した策である。
「何か出せっつったが、お前何だそれ」
「ロシアの人形マトリョーシカですわ」
轟の質問に答えながら百は個性で創り出したマトリョーシカをコスチュームに詰めていく。
「そうか。とりあえず個性に異変があったらすぐ言ってくれ」
「さすがですわね轟さん…」
「何が」
「相澤先生への対策をすぐに打ち出すのもそうですが、ベストの即決をできる判断力です」
「……普通だろ」
「普通…ですか」
そんな轟の飄々とした受け答えに、元々百の心の中で作られていた劣等感の壁はより高さを増し、精神的ショックを受けた心臓を縮み上がらせながら顔を俯かせた。
「雄英の推薦入学者…スタートは同じハズでしたのにヒーローとしての実技に於いて私の方は特筆すべき結果を何も残せていません…委員長を決める時だって言が入れた1票のおかげで副委員長になれましたし…飯田さんのように私は何かを成した訳でもない名ばかりの役職。騎馬戦はあなたの指示下についただけ…本戦は言に為す術なく敗退でした…」
試験の場である事を忘れ、内に秘めた思いを零す。
「本来言が雄英の推薦を蹴っていなければ私は…」
「…!八百万、マトリョーシカ…」
轟は百の体からマトリョーシカが消えていることに気がつく。そしてコンマの差で自分の個性も使えなくなっていることを把握する。静まった住宅街。個性が使えなくなった2人は来るであろう人物に備えて辺りを見渡した。
「来るぞ!!」
「すみませ…」
「と思ったらすぐ行動に移せ」