第17章 知識を得た者
時間は進んで帰りのSHR。教卓の上で予定表を開きながら、いつも通りの草臥れた姿で相澤が生徒たちに連絡を告げる。
「えー…そろそろ夏休みも近いがもちろん君らが30日間1ヶ月休める道理はない」
「まさか…」
相澤の含みのある言い方にクラスがザワつく。彼の口から一体どんな言葉が出てくるのだろうかと生徒たちはゴクリと息を飲み、今か今かと話の続きが出てくるのを待った。
「夏休み林間合宿やるぞ」
「「知ってたよーー!やったー!!!」」
相澤が林間合宿をやると言った瞬間、1年A組の大半の生徒は一斉にワッと声を上げ林間合宿の開催に花を咲かせた。
「肝試そーー!!!」
「風呂!!」
「花火」
「風呂!!」
「カレーだな」
「行水!!」
楽しみが押さえきれないのか林間合宿でやりたい事を各々が口にする。何やら如何わしいことを考えている者もいるようだが。
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「いかなる環境でも正しい選択を…か面白い」
「湯浴み!」
「寝食皆と!!!ワクワクしてきたぁあ!!」
期待を膨らませる者たちとは別に林間合宿の意味をしっかりと捉え、真面目な姿勢を見せる生徒もいた。そしてやはり如何わしいことを考えている1人の生徒。誰かこの低俗煩悩男を黙らせるべきである。
「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」
皆が林間合宿に心躍らせる時、そんな相澤のお言葉で成績が危うい人達は顔色を変えて焦り出す。
「みんな頑張ろーぜ!!」
「クソ下らねー」
「女子頑張れよ!!」
賑やかしく流れる日常の風景。体育祭や職場体験等の非日常続きで、この当たり前の景色に言は懐かしさを抱く。当たり前というのは居心地が良いもので、その居心地の良さを噛み締めるように言はひっそりと微笑んだ。そしてふと脳裏によぎる、オールマイトから伝えられた「いつか巨悪と対決するかもしれない」と言う話。これは本当に近い将来起こる出来事だが、言や緑谷達はそんな事など知る由もなく、起こり得る現実を何処か他人事のように思い、日常は続いて行った。